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【鉄平塾】トレイルランニング走り方教室と健康法の学びブログ

〜運動と健康の理論的な研究~

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あの街を生きていた~阪神大震災を神戸で生きた軌跡 『第一章』

2024年12月28日
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『あの街を生きていた』~震災神戸を生きた軌跡

 

第一章 あの日、神戸に何が起きていたのか 

 

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 部屋の豆電球が消えた中、外の明かりも全くなく、まだ日差しもない真っ暗な中、カーテンの隙間から僅かに外の月明かりが光を指していた。その明かりを頼りに僕が寝ている蒲団の横を見ると何か異様な重量感があった。 

 

「勇人!」 

 

「痛い…」 

「大丈夫か!」 

 

 鉄平の横で2歳年下の勇人は寝ている布団の上に足元にあった本棚が倒れていて本まみれの中、下敷きになっていた。 

本棚は軽い木製の小さいものだが、小学5年生の小さな身体には、なかなかの重みだろう。それに、あんな揺れの後、被っているかけ布団の上から大きなものの圧力がのしかかって来た時の驚きとパニックは想像を絶するものだ。 

 あの揺れに耐えられず、暗い中でも家中のモノが倒れて散乱している様子が微かに分かる。まだ寝ている部屋しか見えないが、さっきの部屋中の騒音から、リビングの中は想像を絶することになっているかもしれない。 

 

「うん。何とか大丈夫、乗ってる重いの、どかせて…」 

 

 鉄平は勇人の布団の上にある本棚を力づくでどかせようとした。 

「重い…」 

 

 中一の小さい体では結構重力があった。でも、地震場のくそ力か、弟を助けるため必死に何とか持ち上げて隙間を開けることができた。その隙間から、かけ布団の横から勇人が、転がるように出てきた。 

 

「助かった、お兄ちゃん、ありがと…」 

「痛かったやろ、ビックリしたやろ?」 

 

「にいちゃん、何が起こったん?」 

「分からへん…地震かもしれんけど、ありえへんかったよな?」 

「うん…死ぬかと思った…」 

 

勇人はハッとして、叫んだ! 

「あ!お母さんとお父さんは!?」 

「ほんまや!お母さんは横の部屋で寝てるはず!」 

 

 鉄平と勇人は起き上がって、隣の部屋を見に行った。 

 

「イテ!」 

鉄平は、足の裏に何かを踏んだ痛みを感じた。 

「ガラスの破片だ…」 

「にいちゃん割れてる、これ」 

 

 その部屋の真ん中には、大きいタンスの上に置いててあった五月人形が入った薄いガラスのショーケースが落ちて無残にも割れて破片が飛び散っていた。 

だがそこには母親の寝ている姿はなかった。 

 

「え?なんでなん?お母さんどこいったん!」 

 

 

「鉄平!勇人!」 

二人の母親の富子が大きな声を張り上げて呼びかけた。 

 

「お母さんどこで寝てたの?」 

「昨日はなんだか寝付けなくて、お父さんの布団に来たのよ」 

 

 富子はいつもは鉄平たち子ども二人が寝ている部屋の横にある部屋で一人で寝ていた。 

しかし、昨日は1月の3連休の最後の休みの月曜日で、金曜の祝日から家族4人で兵庫県の北部にあるハチ北高原にスキー旅行に行って帰ってきた夜だった。 

 そう言えば昨日の夕方に帰って来た時、住んでるマンション前の電線にいつもいたムクドリの大群がいなくなっていた。それはいつも大量の鳴き声で夕方の知らせの風物詩でもあったから、その騒音がなくなって静寂とした夕方に何か異様な雰囲気を感じていた。 

 また、その日の夕焼けはいつも以上に赤く、というよりも紫がかっていて異様な色だった。さらに、その日の夜の月は満月に近く神妙な赤さだった。 

 

 あとから調べてわかったことだが、何かの前触れ手はこういうことなのか?自信が起きる前の近くのエネルギーで電磁波の影響から空の雰囲気や動物たちに影響を与えるのだとか。そんな不吉な予感を富子も感じて、一人で寝るのが怖くなったらしく、いつも寝ている寝室から移動して、鉄平の父である正樹の布団で一緒に寝ていたのだった。 

 

 

 

「お前たち大丈夫か?生きてるか!」 

すぐに鉄平たちの父、正樹がまだ暗い部屋の中、飛んできた。 

正樹が寝ている部屋もリビングの横にある割れたガラス戸から無数に飛び出して散乱したガラスコップや食器や散乱していた。 

 

「勇人が足痛めてるかもしれん」 

「この本棚が倒れてきたのよ」 

富子が鉄平が起こした後の本棚を指さした。 

「膝を強打したかもしれん…」 

勇人が、つぶやくように答えると、富子が優しくさすっていた。 

 

「今、朝の6時や。これからどうするか考えなあかん。お父さんは7時になったら会社に連絡する。お母さんは学校に連絡してみてくれ。やってるかはまだ分らんけど」 

正樹は家族が何をしたらいいか戸惑いばかりで不安を抱える中、冷静に今やるべきことを冷静に判断していた。 

 

 正樹はだんだんと窓の外が明るくなって、光が少しずつ入り始めてきた部屋の中を見て、その散かり具合の騒然さに唖然とした。 

「何から手を付けていいのか?」 

 

「まず出入り口の確保だ」 

そう言って、台所までの通路を散乱したグラスや電話機などを避けて慎重に進み、廊下へ続く扉に手をかけた。 

「ん?あれ?空きにくい、硬い…」 

 

廊下へのドアは部屋全体が歪んでいるためか、少し開きにくくなっていた。 

少し強く押し開けて廊下に出た正樹は、北側の奥にはまだ、南からの朝日の外の明かりが届かず進むのに苦労した。 

「懐中電灯どこやったかな?」 

なんとか、靴箱の上から落ちて散乱している、玄関の足場で靴もかき分けて扉の鍵に手をかけた。 

「ガチャッ」と鍵が開き、そっとドアノブに手をかけ下におろし、そっと押すと、隙間風から冷たい北風が入ってきた。外はまだ暗く、廊下の明かりもなく、外がどうなっているかは分からなかった。 

 

「とりあえず、玄関からは出られる」 

そう思って、家族が待っているリビングへまた暗い中、引き返していった。 

その先が、マンションから見た町の悲惨な様子が、まだどうなっているか、その時は知らないまま1.17を暗い家の中で過ごした。 

 

家族がいる子どもたちの寝室に戻る中、台所やリビングの荒れた様子が少し目に入った。 

「これはどうするのか…後でまた考えよう」 

富子と鉄平と勇人のいる子ども部屋に来た正樹は声をかけた。 

「大丈夫か?えらいことなったな」 

 

鉄平が心配そうな顔をして聞いた。 

「お父さん、何が起こったん?」 

「地震とちゃうか?お父さんも何が起こったのかまだ分からへんねん」 

富子が、リビングの方へ向かおうと立ち上がった。 

「テレビはつくんんかな?」 

「危ないって、なんが落ちてるか分からんやん!とりあえず本が散らかってるけど、片付けながら明るくなるまでここにいよう」 

 

 4人はまだ胸騒ぎがする胸の内を何とか抑えようとしながら、黙々と勇人の上に倒れてきた本棚から散かった散らばった本の山を片付けだした。 

 1.17の日の出は朝7時5分だった。 

 マンションの南向きの部屋の東側にあるこの部屋に、7時を過ぎた頃にカーテンの隙間から見える外の黒が次第に明るい青が混ざった色になってきた。だが、いつも朝方目が覚めると窓の外から聞こえる雀の鳴き声が全くしなくて静けさの漂う爽やかとは真反対の夜明けとなっていた。 

 

 1995年1月17日、午前5時46分から20分がようやく立ったところだった。 

 

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