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【鉄平塾】トレイルランニング走り方教室と健康法の学びブログ

〜運動と健康の理論的な研究~

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『六甲縦走殺人事件』 第五章~夜の東縦走路で更なる事件~

2024年03月18日
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第一章を読んでいない方はこちらから

『六甲縦走殺人事件』 プロローグ、第一章

 

   六甲縦走殺人事件

 

 

第五章 夜の東縦走路で更なる事件

 

【午前2時9分】

 谷山は里保と掬星台の階段を下りた舗装路で分かれ、ロードの下りを走っていた。

 里保の行くトレイル道のアゴニー坂とロードではどちらが速いかまた競争していたところだった。1キロ4分を切るペースで一気に下り、1キロ少し進んだアゴニー坂の出口に走って来た。その手前に走っていた横川に追い付いた。

 

「あれ?まだ里保さん来てない。そっか僕の方が速かったんだ」

と谷山はつぶやいた。

「あれ?谷さんもう来たんすか! 流石ロードは速いっすね。あれ?里保さんは?」

「まだみたいなんですよ、ロードとトレイルで競争していて」

「トレイルの方が時間が掛かるかもしれませんね。なんなら、逆から登って探してみますか?」

「はい。そうですね。里保さんまだなようなんで、待っていても暇だし、ここからアゴニー坂を逆走してみようかと思います」

「あ!僕も心配なんで一緒について行きます」

「じゃあ、一緒に驚かせてやりましょう」

 

 里保を驚かせてやろうと企んだ谷山はアゴニー坂を下から横川と一緒に登りだし、里保と出会うところまで進むことにした。

 

【午前2時12分】

 掬星台からのロードは、摩耶山からの夜景を見ようと、時より夜も更けた暗い道で車が通過する。土曜日の夜ともなると掬星台へ向かう車も、下界の街へ帰る車も多くなっていた。掬星台方面からから柿谷エイドへ大きなトラックも通過した。

 鉄平は掬星台からのロードを走り終えて、柿谷峠のトイレ側にあるエイドを見付けて、ハイスピードでロードを降りて来た足を止めて寄って行った。そこには私設エイドがあり、ドリンクをまた貰おうとしたら、ゴープロのカメラを構えた寺内がいた。

「鉄平さん、速かったですね。僕もせっかく、ここまで飛ばしたけど、このエイドで足を止めてしまって撮影中です。そう言えば、ユーチューブの相談ってなんですか?」

「寺内君、ユーチューブの撮影も楽しそうやな。これ終わったら編集してすぐ上げるん?」

「そうなんすよ、撮るのは簡単なんですけど、また編集が大変なんすよね」

「寺内君のチャンネル面白いからいつも見てしまうわ。今回のナイトキャノンも面白そうやな」

「また見てくださいね。ここからロード一緒に走って行きます?撮りながら一緒について行きますよ」

「ぁ、さっき僕が到着した時、撮ってた?あまり撮られると恥ずかしいなぁ(笑)」

「撮ってましたよ。良いじゃないすか、鉄平さんの走りは視聴回数稼げるし(笑)」

寺内は鉄板で焼かれた牛の焼肉をあまダレの焼肉のたれに漬けて、最後のひと口をほおばった。 鉄平は泡のドリンクをマイコップに一杯貰い、1口飲んでつぶやいた。

 

「実は、掬星台エイド出てから、どこかでスマホ落としたみたいで…」

「ぇ…」

寺内はまたかと言う表情をして、その後にやけた。

「さっき写真撮ろうとしたら気が付いた」

「はぁ?またですかぁ~もうこうなったら、自業自得と言うよりも、わざとやってるでしょ(笑)」

「まさか、大事な記録撮る仕事道具だし」

 

 鉄平は持っていたコップを一気に飲み干し、出発する準備をし出した。

「そう言えば谷さんと里保さんは?」

「それが、ロードとトレイル分かれてどっちが速いかやってるみたいで、それからどこ行ったか。連絡取れないし」

「じゃあ、こんな夜じゃ道も暗くて探しようがないし、行きますか?」

「そうやね。多分、スマホは誰かが拾ってくれてるかもしれないし、エイドかゴールのスタッフの人に渡すと思うから」

「警察官ランナーの横山さんもいますしね」

そうして、寺内博司と鉄平は一緒にロードを走り出した。

 その頃、お互いに気がついてはいなかったが、はるみと和美も遅れを取り戻そうと御自慢のロードの走力で、2人力を合わせて掬星台から飛ばしていた。これまでエイドの滞在時間が長すぎたので、今度はエイドにも目もくれず、寺内と鉄平が走っている後ろアゴニー坂出口のロードを走っていた。

 

 

【午前2時14分】

 谷山は里保を探しにアゴニー坂を逆走して登っていたが、しかし、いつまで登ってもいない。
どっかでロストしたのか、なんかトラブルか。少し心配になってきた。急な登りとつづら折れのトレイルを越えて、摩耶別山から下りに入りホテルデマヤの舗装路に出た。

 あたりを見渡し、奥にあるトレイルに入る道の舗装路の登りに差し掛かり、山道の暗い中、1つの明かりがポツンと見えた。

「里保さん!」

谷山は急いでダッシュした! 

暗いトレイル道の上に、明かりが光ったままのヘッドライトをして里保がうつ伏せに倒れていた。

「里保さん大丈夫ですか!」

「何かに刺されたのかも?」

一緒に来た横川が心配そうに首すじの横を見て確認した。

「何かに刺された跡がありますね。ハチ?」

谷山が一緒に見て、横川と目を合わせた。

「まだ息はあります!脈も!里保さんはまだ生きてます! 救急車を呼びますんで、谷さんは里保さんを介抱してください!」

「分かりました!とりあえず、下の車が入れるとこまで運びます!」

横川は救急車をスマホの電話で呼び出し、準備をした。

「警察やパトカーを呼ぶと大事になりそうなんで、とりあえず私は今日と明日は仕事休みだから、宝塚まで行きます! 明日、里保さんのいる病院へ行きますね! 鉄平さんも見つけたら伝えます」

「さっき、鉄平さんに電話したら、まったくでないですね…」

「ま、またスマホを落としたんじゃ…」

 

 横川は谷山と分かれて、またホテルデマヤから続くロードをダッシュで走り出した。

谷山は里保を横に寝かせて、エマージェンシーシートを掛けて救急車が到着するのを待った。

 

 

【午前2時15分】

 ルーカスは大龍寺のエイドの車に乗せてもらい、家の近くのJR灘駅付近まで送ってもらっていた。

「送っていただき、ありがとうございます。家に一旦帰ったら明日の朝に新神戸の病院に行きますね」

エイドをしていた運転手の滝川信二は明るい表情で答えた。

「いえいえ、問題ないですよ、モーマンタイ。ぁこれは中国語か(笑) 僕らも家も灘駅のあたりなんで。灘のチンタの近くですよ。キャノンボール主催者の」

「そうなんですね!今度せっかくなんで行ってみます!」

 

【午前2時18分】

 鉄平と寺内はロードを走り、自然の家前のバス停から今度は六甲縦走路沿いに、トレイル道の階段登りに差し掛かった。

「ユーチューブのチャンネル登録者ってなかなか1000人いかないよね」

鉄平が、寺内の後ろを登りながら聞いた。

「そうですね。実際にトレランをやっている人口ってそう多くはないんで、なかなか難しいです。僕のチャンネルは2000人は超えてますが、1000人超えてるトレランのチャンネルは少ないんじゃないですかね」

「僕の鉄平塾チャンネルは数百人やわ」

「トレランではなくて、人気のロードランナー系のチャンネルは多かったりしますね」

「そうだよな~ ちょっとこの登りは寺内君に付いて行けないから先に行って良いよ」

「そうですね、先行ってまたいろいろ撮影してますんで、どこかでまた追い付いたらよろしくです」

そうして寺内は登りをヒタヒタと軽く駆け上って、暗いトレイルの奥へライトの明かりと共に消えて行った。

 

 鉄平はまた一人になり考えた。これから一人になって、とりあえず宝塚まで行くか。そこで折り返しはスピードの人たちが来るまで待って、スタッフとか知り合いに落としたスマホがどこにあるか確かめよう。誰かのスマホで僕のアカウントでアクセスしたら、アイフォンの位置情報でどこにあるか分かるし。

 

【午前2時27分】

 夜中で道も空いていたため、思っていたより早くサイレンを鳴らして走って来た救急車がホテルデマヤ前に到着した。谷山は里保を救急隊員と一緒に抱えて、車の後方室へ運んだ。

「里保さん!今から救急車で運びますから頑張ってくださいね!」

「揺らさないように、乗せたら応急処置をしながら、新神戸の病院へ運びます」

救急隊員がそう言うと、バックドアをバン!と閉め、ピーポーピーポーとサイレン音を鳴らして、真っ暗な夜の摩耶山の裏で救急車は赤い点火灯を付けてスピードを上げロードを走り出した。

 

【午前2時28分】

 鉄平は寺内と分かれて、トレイルの登りを登り切り、西六甲ドライブウェイのロードに出た。本来の六甲縦走路は、屋根のある木の休憩所の三国池前から北へ階段を登り、三国池前、三国岩を通るルートとなっている。

 しかし、ほとんどのキャノンボーラーはこの東西に走るロードをずっと通り、丁字ヶ辻まで進む。その交差点前で先ほどの六甲縦走路と左から来る路地で繋がる。

 ここからは通常の六甲縦走路もトレイル道が無く、整備された西六甲ドライブウェイ沿いに進むこととなる。

 

 丁字ヶ辻から東へ進むと、ここには有名な六甲山上の施設が点在している。『六甲山YMCA』の入り口を左手に見て、その右側には新しく建てられた『六甲迎賓館』がある。

 そして、六甲縦走路をハイキングしたり、トレランをする人にはオアシスである『藤原商店』がある。ここは色んな自販機に食べ物や飲み物が調達でき、テーブルのある休憩所が店の横にあるので、いつも山の人で賑わっている商店となっていた。

 今日は夜中ともあって、まだ時間も早いので人はいなく店も閉まっている。鉄平は藤原商店をスルーして、ここから始まるロードの登りを懸命に走り出した。

 歴史ある『六甲山ホテル』や神戸の街が見渡せる展望が良いレストラン『空のダイニング』の前を通り過ぎ、記念碑台前の交差点まで来た。

 

【午前2時40分】

 鉄平は記念碑台前の信号で赤信号となり、走るのをやめて止まった。ここまで結構なロードの登りを走って駆け上がって来たが、先ほど分かれた寺内の姿は一向に見えない。

「やっぱりロードも速いな」

そうつぶやき、信号が青に変わって再び走り出し、右へ六甲山小学校のある緑色の道路の坂道を歩いて登りだした。

 その先へ進むと『サードプレイスロッコウ』の横でエイドが出ていた。鉄平がちらっと顔を出して寄ると、そこには寺内がまた撮影をしていた。

「鉄平さん、また会いましたね。エイドは必ず撮影してるんですよ。撮れ高、高いし」

「ここもポタージュスープとか温かいものもあるんで良いよね」

鉄平は「スープ一杯ください」と言って、紙コップに入った濃い黄色の湯気が出たポタージュにフーフー息を吹きかけ一口飲んだ。

「温かい、生き返る。ナイトトレイルはライトだけの明かりやから、取れ高は低いよね」

「そうなんですよ~分岐とか、夜景とかを中心に撮って、あとはロードとエイドで繋いでます」

 

【午前2時50分】

 鉄平たちが六甲サードプレイスのエイドに入った後すぐに、はるみと和美はこのエイドには寄らずに先へと進んで走り過ぎて行っていた。

 その1分後、鉄平はペットボトルにエイドでコーラを追加し、寺内とまたロードを一緒に走り出した。

日本で一番古いとされる六甲山上にある『神戸ゴルフ倶楽部』の間の緑の金網の柵がある土の道を走り抜けて行く。

 その先のトレイルを抜けると、ロードに出て右を見ると神戸の夜景が一望できた。ここは標高の高い場所から、視界が広がって南側の神戸の夜景が見渡せる絶好のビュースポットとなっている。菊水山などの西側は西神戸の街並みだが、摩耶山付近では三宮から東側の大阪平野まで一望できる広範囲の夜景が圧倒的だ。

 ガーデンテラスへ向かうトレイルの階段を登って抜けると、明るい舗装路とその奥に施設が連なっているのが見えた。

「僕はここで少し撮影を色々してきますね~」

「じゃあ、僕はここには用は無いから先を行っとくわ」

 

【午前3時2分】

 鉄平はガーデンテラスの駐車場の右奥にあるトレイル道ではなく、ショートカットの左に進んで道路の上を越える橋を渡って六甲山上ロープウェイの駅まで走って来た。

このルートの方がトレイルの走りにくい、しかも、つづら折れのある下りを行くよりも、ロードをスピード出して走る方が速かったりする。そのまま走ると自販機のある極楽茶屋前に来た。

 ここからはルートがロードとトレイルの2つに何度も分かれて、どちらの方が良いか迷う場合がある。だが鉄平は、最適なルートを把握しており、ここはトレイル、ここはロードと選んで走って行く。

 

 途中で、ちょっと前から嫌な予感がしていた、便意をもよおしてきたようだ。

「うんこトラブル…」そうつぶやいた。

 ランナーにとって、走っている時に問題となるのが、どこで尿意や便意を催すか。それは走っていると突然やってくる。

 マラソン大会や、普段街中を走っている時は、どこにトイレがあるかある程度把握して走っているため、便意の気配が開催したらスピードが上がったりする。でも、スピードを上げれば上げるほど、身体は揺れ、ウンコが顔を出すまでの時間が短くなる。 かと言って、揺らさないようにゆっくり慎重に走っていると、トイレまでの時間が掛かる。これは速度と時間の反比例となり、鉄平は「うんこトラブルの法則」と名付けた。鉄平塾ブログにも書いている。トラブルが起こると、人間の尊厳を失うし、何より布の後処理が大変だ。

 

【午前3時22分】

そのトレイルの出口で、ロードを走っていた田中和美と出会った。

「和美さん、やっと人がいた!」

「あら、鉄平さん。掬星台ぶりですね」

「あれ?はるみさんは?」

「さっきのロードでひざを痛めたみたいで、少しゆっくり行くから、先に行ってと言われて一人で走ってるんです」

「あれ、どこかで抜いてたんで気が付かなかった。さっきのショートカットのとこかな」

「鉄平さん、六甲山の山頂は行かなくて、このまま一軒茶屋まで行きますよね」

「はい。山頂は何故か行かないのがキャノンボーラー(笑)」

「そうですよね。今山頂に行っても何もないし時間かかるし」

「僕は…早くトイレに行きたいし」

 

 

【午前3時29分】

 一軒茶屋に到着した鉄平と和美は奥のトイレのある広場に行くと、またエイドがあった。

このエイドでは、ごろごろしたジャガイモと三角に切られた人参と、細かく切られた玉ねぎが入ったスープカレーと温めたホットワインも用意されていて、鉄平は両方共もらった。

「鉄平さんまだこれから最後のトレイルだと言うのにまだ飲むんですか?」

「これまで全エイドで飲んできたよ(笑)」

「私も軽く飲もっかな~ はるちゃん心配なのでここで待ってますね」

「そうですね、確かにここからのトレイルは1人では心配なんで。僕は先を急ぐんで行きますね」

「はい、ご無事で。あ、そう言えば、はるちゃんが鉄平さんのスマホを掬星台出たとこで落ちてるのを見るけて持ってます。私が持っていれば良かったですね」

「そうなんですね!ここで待ってても、いつ来るか分からないかだし、宝塚の塩平寺の下にある広場で折り返す予定なんで、そこで待ってますね」

 

【午前3時35分】

 鉄平は一軒茶屋前の広場を後にしてロードを一人で走り出した。ここからは1キロほどロードを走り、途中で鉢巻山のトンネルを経てカーブの途中で左に曲がり、トレイルの下りに入る。

 東縦走路のトレイルを10キロほど宝塚の折り返し地点まで下り基調で最後の六甲縦走路を駆け抜けて行く。下り基調とも言えど、何度も登り返しがあり、単純に下に降りれず、この10キロはここまで走ってきた体感ではとても長く感じるルートとなっている。

 

【午前3時35分(上記同時刻)】

 六甲山頂前のトレイルで、足を痛めていたはるみは走るか歩くかのペースで進んでいた。

そこに後ろからライトがものすごいスピードで近づいてくるんを後ろで感じた。振り返ると、そこには警察官ランナーの横川が必至で追いついて来た。

「あ!はるみさんじゃないですか」

「横川さん!掬星台エイドぶりですね」

「足痛めてるんですか?」

横川は、いつもの走りではない、はるみの動きを見て心配そうにたずねた。

「そうなの、慣れないトレイルのアップダウンで少しひざを痛めたみたいで。何とか宝塚までは行けるかと思います」

「じゃあ、僕はこのまま一軒茶屋まで行くんで頑張ってください!」

晴美を追い越して走りだそうとしたところ、思い出したかのように、晴美が横川に声を掛けた。

「あ!横川さん、鉄平さんに追い付きます?鉄平さんのスマホを拾ったんで、私じゃ追いつけそうにないから、これ渡してください」

「おお、こんなところに(笑) 鉄平さんスマホを落としたまま走り続けているんですね」

「じゃあ、よろしくお願い致します!」

 

【午前3時40分】

 里保の乗せた救急車は新神戸病院に着き、谷山が付き添い、夜間救急診療に入った。里保が少し瞼が開き、目を動かして谷山を見た。

「里保さん!大丈夫ですか!」

「何とか…首の横がまだ痛いわ」

「里保さん、まだ寝ててください!」

谷山は心配して首を起こそうとした里保の頭をそっと優しく抑えて、枕にの上に寝かせた。

「分かったわよ。これはハチに刺されたのかしら」

里保は不思議な顔をしていた。

「それがどうやら…」

「虫とかじゃないの?」

里保がはっとした表情を見せ、息を飲んだ。

「ハチに刺されたような跡じゃなくて、注射針で刺された傷が残っていたみたいです。それに体の中には毒素が検出されて…」

「ぁ、毒なら倒れる前に、心配だったんでポケットに入れていたポイズンリムーバーですぐに首の横に手を回して抜いたたわ」

「ポイズンリムーバーだけじゃ、毒ってすぐに全身に回るし、どうなんでしょ?」

谷山が疑問に思うと、里保が続けた。

「それに、そのあとすぐに、何かあった時にと思って、エピペンもポケットに準備していて、それで応急処置もしたの」

「凄い、里保さん」

「伊達に医療従事者、看護師を長くやってるからね。でも自分で自分にやるとは思わなかったわ」

「実はそれが、功を奏したみたいで、致死量ほどの毒は身体に入らなかったみたいなんです」

「良かったわ生きてて…でも、誰がこんなことを…」

里保が不安そうな表情をしているのを谷山が見て、優しく声を掛けた。

「里保さん、今は考えても仕方ないんで、ゆっくり寝てください」

「わかったわ、そうする。ありがとね」

 

【午前3時46分】

 東縦走路の下りを鉄平が走っていると、時より右の下の方から、車のエンジン音が聞こえ、芦有ドライブウェイの料金所にある明かりが見えた。ここは下りはガレ場が多くテクニカルなため、ライトだけの明かりで夜に走るのは結構難しい。それでも、何とか駆け下りて行くが、再び便意をもよおした。「セカンドうんこ…」そうつぶやいた。

みるみるうちに、衝撃を和らげるためか下りの軽やかさがなくなりスピードダウンした。

「このまま、宝塚まで行けるか?」

いや、パワーの折り返しは、塩平下の広場で、宝塚駅周辺まで行けないのでトイレがない。

「クソ!ここに来てノグソか…」

そう考え、頭ではまたウンコのことばかりになる。ナイトトレイルで明かりもないから、まだ前後に人もいなさそうだし、どっかの脇道に入って、野糞をしよう。そう決めると気持ちも軽くなり、その先の岩場の影を見付け裏に回って、用事を済ませた。

「ふぅ~よしここからもう少しだ」

 

【午前3時49分】

 船坂峠を越えて、少し右が崖になっている細いトレイルに差し掛かった。

 その時、後ろからかすかにライトがちらっと見え、後ろからランナーが追い付いて来たかと思い、脱糞後のお尻のにおいに気が付かれるのは恥ずかしいなと思い、抜かしてもらおうとスピードを緩めて、崖側に身体を避けた。

 その時だった。猛スピードで走って来たランナーと、ちらっと見えた明かりが、頭の後ろで感じた瞬間。 肩をドン!と思いっきり押されて、鉄平は右側の崖に突き飛ばされた。木や茂みが多い崖で、その勢いで大きく転がり、5mほど下の木にぶつかり、「うう~」と嗚咽を上げ、倒れた。

 

【午前3時51分】

 新神戸の病院に運ばれていた松下里保はベッドですやすやと眠っており、横のソファーで見守っていた谷山も座ったまま眠りについた。夜もだいぶ更け、夜明けの時間も近くなっている。3月末ともなれば日が出るのも早く、今日の日のでは日の出は午前5時47分となっていた。この長かった夜の夜明けは、あと2時間ほど。もうすぐだ。

 

『六甲縦走殺人事件』 第六章~宝塚に向かう東縦走路で交錯~

 
 
現在、執筆で1章ごと書きあげたらブログでアップしていきます。
 
 
 
 
最後の結末章は2024年春のキャノンボールの日までに公開。
 
これを読んでもらって反響があれば、出版を予定しています。
どこか良い出版社があればご紹介ください!
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